『ゴブリンスレイヤー 1~2』蝸牛くも(SBクリエイティブ)読了

以前から少々気になっていた本作品が今期アニメ化。1話を見たところ、ウワサに聞いていたとおりのダーク・ファンタジィ的世界観で、なかなかハードな展開になっていくのかと思いきや、2話以降はそうでもない。硬派な物語を想像していたが、ハーレム展開もアリで今風(とはいえ、昨今の主流から見れば相当硬派)。TRPGを思わせる風合いもあり、個人的に気に入ったので、原作も読んでみることに。

2巻まで読んだところ、細かい部分で気になる点はあったけど、なかなか好み。個人的に今後の読みどころ/注目どころは2つ。

  1. 主人公が仲間・信頼・愛を取り戻していく(獲得していく)につれ、どのように変わっていくのか
  2. ゴブリンは絶対悪のままなのか

1は本作品の主題だろうから、ただ楽しみにすればいいと思うが、2は注目のしどころ。ゴブリンが存在そのものが悪で、あくまで人と相容れないモンスターのままなのか、彼らのなかにも人と価値観を共有できる(あるいは人が価値観を理解できる)個体がいて、それと対峙しなければならない場面が来るのか。前者であればストーリィ上の起伏はないが、後者だと、主人公の人間性の恢復とあわせることで、物語の大きなクライマックスになりうる。まあ2巻まで読む限りは前者だとは思うが、多少の期待を持ちつつ読み進めたい。

『私立伝奇学園高等学校民俗学研究会〈その1~3〉』田中啓文(講談社)読了

『QED』シリーズのオチがダジャレになったような感じ。とkにかくメチャクチャだけど、メチャクチャすぎて許せる類。

『SILENT WORLD』ごぉ(KADOKAWA / アスキー・メディアワークス)読了

完全に『ISLAND』と同じ世界観。判りやすくおもしろい。本編のみで終わっていたら物悲しい余韻を残す一般的(従来的?)な構成だったかと思うんだけど、Extraがあるところが今風。蛇足と捉える向きもあるかもしれないが、個人的には嫌いじゃないどころか続きが読みたくなった。

なお『ひまわり』が同じ世界観だというのを初めて知った。『ひまわり』は途中でほっぽりだしてるので、再プレイするいい機会かもしれない。

『BEATLESS 上 下』長谷敏司(角川書店)読了

最近は読書量もめっきり減り、感想を書くこともなくなってしまったが、書かざるを得ない。本書は、きわめて現代的・実際的な問いを投げかける(でありながら、近未来色に彩られている)、実に優れたSF小説だったからである。

一般的にはあまり理解されていないかもしれないが、そもSFには、純文学以上に人間性に切り込んだり、社会を俯瞰したりする作品が数多く存在する。それは、SFがその構造上、問題を先鋭的な形で浮き彫りにすることが可能だからである。

本書は、もっとも表面的に現れている「こころが存在しないAIを人間は信頼できるか(愛せるか)」というテーマを通して、「人工知能(AI)」と「人間」に仮託された「かたち」「ふるまい」「意味」「こころ」の関係を問うている。

最終的に主人公のアラトは「人間にとって、モノは愛すべき存在であり、信頼すべき存在である」という答えにたどり着き、それが人類にとっての「少年時代」の終わりだと告げる。人によってはそれはディストピアだと感じるかもしれないが、アラトはその意見には与しない。かたちのない愛やこころといったものは、多くの人間の多くの言動・行動・ふるまいが円環状に散りばめられた中心に存在する空白の中にあるものであり、こころがないモノも、ともにその円環に位置し、ともに手を伸ばし歩んでいく存在なのだと考える。モノは人類の始まりから人間の一部であり、そうなることが必然で、そうなった今こそ社会が一歩前進したのだと。

(さらに作中では、人間を遥かに超える知性を持つ超高度AIが、最後には人間を「信じ」、未来を託す。これは「量」によって「愛」が担保されると確信したためで、このこともまたひとつの大きなテーマだと思うが、とりあえずこの点はおく)

俺は今まで、人間の「こころ」だって、シナプスの発火が司っているものなんだから、電気信号で動く機械に「こころ」がないというのなら、人間にだって「こころ」があるといえるのか、という考えから、機械だって人間だって同じだろう(ゆえに機械だって人間と同じように信頼できる)という意見だった。だから、アラトは、機械には人間が持つ「こころ」はない。でも「こころ」がないモノだって、同じ「かたち」を共有できる(書いてて気づいたけど、これってまさに哲学的ゾンビだよな)なら信頼することだって愛することができるんだという考え方は、同じ結論ではあってもそのアプローチの違いには考えさせられた。「かたち」を利用して「意味」を与える「アナログハック」は、本書のキィワードといえるが、結局「かたち」と「意味」は不可分で、だからこそ人間とモノが手を携えることができるというのは、非常に興味深かった。

……そう、もう一点ふれておく必要がある。本書はSFであるが、ラノベでもある。そして、アラトとヒロインであるhIE(AI)のレイシアの会話・関係・エピソードは多分にラノベ的手法で描かれ、慣れない人にとってはときに苦痛をもたらしたかもしれないが、ラノベの様式に従うことによって、人間とAIの関係を「ボーイ・ミーツ・ガール」という理解しやすいフレイムワーク(「みんなが理解っているお約束」といってもいい)に落とし込むことができたため、焦点が鮮明になっていた。正直個人的にも暑苦しく感じる部分もあったりしたが、俺はラノベとして書かれたことには意味があったと思っている。

以上つらつらと書いてきたが、AIが一般にも取り上げられつつある現在において、「これから」を問う小説だと思うし、50年後、もしかすると「いま」を問う小説になるかもしれない。……いや、さすがにそれは先走りすぎたかもしれないけど、モノ(AI)とヒトの関係を語るうえでの道しるべとなるようなすばらしい作品だった。

『All You Need Is Kill』桜坂洋(集英社)読了

読み始める前、結構期待していた。ループものだし。おおまかな設定(同じ戦場を繰り返していく)は聞き知っていたので、どういう着地をさせるのかにも興味を持っていた。

読了後、最初の感想としては、『宇宙の戦士』と『エンダーのゲーム』を足して、ラノベエキスで7倍ぐらいに希釈したような作品だなと。

結末自体は(個人的にはあまり好みではなかったが)よいとして、その螺旋感の薄さが残念だし、そもそもいろんな設定も詰めきれてなくて(あるいは描ききれてなくて)「これってどうなの?」な部分が多かった。ヒロインの造形もこの作品で……という感じだったし(この点については、うまくやればおもしろいものになった気はする)。

が、そういった欠点(通常なら相当な文句を言うであろう)はあるものの、意外に好意的に評価している自分がいた。なぜなんだろうと考えると、それはラノベの枠内(スーパーダッシュ文庫)でこういう作品に挑戦しようという意気込みを買ったからなのかなと。

SFとしては甘々、でも心意気やよし。そういう作品かな。ぜひその意気込みを次に活かしてほしい……と思ったが、桜坂さんのそれからってあんま聞かないな。

『女騎士さん、ジャスコ行こうよ 3』伊藤ヒロ(KADOKAWA/メディアファクトリー)読了

なんの内容もなく、そのことを作者も自覚しながら書いているため、ストレスなく読め、暇つぶしになる、というのが本シリーズの評価だったんだが、今回作者が色気を出したのか(もともと書きたかったのか)、自治体の町おこし的環境整備の話とか、自治体とボランティア的職員の関係とかとぶっこんできたため、話がとっちらかった印象がある。

本作品について、個人的には許容範囲だったが、あまりブレてはいかないほうが楽しめるのかなという気はする。

それから最後に入れてきたばあちゃんネタ。ミステリィではよくあるネタで、どのように叙述するかが作者の腕の見せどころなんだが、本作品ではあまりにも乱暴かなと。

『吸血鬼と精神分析』笠井潔(光文社)読了

図書館で見かけてなんとなく手にとった矢吹駆シリーズ第6作。間をだいぶすっ飛ばしてるがいいだろう。

正直ミステリィとしての輝きはあまりなく、ほぼ哲学論議が主題。今回、その部分をあまり楽しめなかったので、俺にとっての本書の魅力は低かった。

あ、でも駆とナディアに会えるというのは、それだけで魅力だな。懐古主義と言われようが、やっぱり懐かしい顔に再会できるのはうれしいものだ。むろんそのときの彼・彼女らが輝いていればなおのことうれしいんだが。