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月別アーカイブ: 2016年10月
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映画『君の名は。』鑑賞
昔語りから始めたいと思う。
俺が「新海誠」を知ったのは、18禁ゲー『Wind – a breath of heart』のOP。たしかネットの掲示板で、「このOP綺麗すぎる」みたいな書き込みに関心を持って、アップされている動画を見たのが最初だった。画面に現れたハーモニカの描き込みに驚かされるやいなや、鳴り始めた前奏とともに次々とカットインしてくる映像に釘付け。見終わったあとも信じられない思いで連続で30回ぐらいは繰り返しただろうか。とにかく背景の美しさが衝撃的だった。
(十数年前のことで定かではないけど、最初に見た動画は違法アップロードだったのかもしれない。ちなみに現在は、公式がYoutubeで公開されている。『Wind – a breath of heart』のOP)
それからすぐに『BITTERSWEET FOOLS』のOPも見て(なお両ゲイムとも中古で購入してプレイした。ゲイムとしては……たいしたことなかったかな(笑))、『ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』と見てきたわけだけど(舞台挨拶も見に行った)、以降、劇場に足を運ぶことはなくなった。
理由は2つあって、1つは『秒速5センチメートル』がちょっとつらすぎた。主人公遠野貴樹が想いを引きずりながら生きていること、ラストでのやるせなさ……それに「コスモナウト」の澄田花苗の失恋。消化しきれない話ではないと思うんだけど、とにかくその当時はなかなか次の(同じような)新海作品を見たいと思えなかった。
もう1つは、どの作品も一言「純愛」がテーマ、と言っていいかなと思うんだけど、その「パターン」に食傷気味になったということ。そして、それがなんとも後味というか据わりというかとにかくストンと落ちやすさがない。それが新海作品の特徴であり、よさの「萌芽」であるとは強く思ってたし、宮崎駿、庵野秀明に続く才能になりうる存在だと期待してたんだけど、やはり『秒速5センチメートル』のダメージもあって、2、3作品置いてもいいだろうという気持ちになった。
そんなわけで『星を追う子ども』『言の葉の庭』はスルーして、『君の名は。』も当初は見に行くつもりはなかったし、その思いは『君の名は。』が大ヒットを飛ばしているらしいとさまざまなところで(マスコミでも!)耳にするようになっても変わらなかった。
それが変わったのは、ネットの記事でこの作品がハッピィエンドだと知ったときだった。大ヒットの理由がそこにあるのかという思いが頭をよぎると同時に、それははたして「新海誠作品なのか」という疑問と興味もわき、自分の目で見てみたいという思いが強くなった。
――ここまでがマクラ。
数日後、映画館に向かう。平日だが、客入りはほかの映画に比べると多い。年齢層は10代~20代が中心で、今までの新海作品とは異なり、女性比率が半分近い。そして上映……。
目を見張るきれいな映像はそのままに、今までの尖った作家性が影を薄くし、これまでは見られなかったコミカルなシーンもあった(細田守的と感じた)。ストーリィもシンプルに「時・空」を超えるラヴストーリィで(まあSFとしてみると、ちょっと納得いかない点もあったりして、悪く言えばカンドー優先のケータイ小説的な……読んだことないけど)、エンディングもやさしく、鑑賞後、心にぽっかり穴を開けられるようなこともない、たいへんとっつきやすい作品だった。明らかにキャズムを超えたという印象。
これが新海誠の進化なのか変化なのかはよく判らないし、正直若干の違和感は感じたんだけど、エンタメ作品としてすばらしい出来であったことは間違いないので、疑問を呈しにくい気持ちがある(笑)。でも次の作品がどうなるかは見てみたいと思った。
モヤモヤは振り払ってここからは褒めていきたい。
まずは人物の描写(絵・動き)。今までの新海作品の人物描写は、その背景に比べだいぶ不満だったんだけど、今回とてもいいと感じた。神楽のシーン、それにラストの階段でのシーンなど人物でグッとくる場面があったことがすごくうれしい。
次に挿入歌のタイミングと映像。まあお手のものではあるんだが、これまた上手いとしか言いようがない。RADWIMPSで揃えたのも、イメージ統一という面で非常に効果的だったと思う。
そして映像美。タイムラプスとか流行りの表現も加え、その美しさに間違いなし。ここまで美しいと、聖地探訪すると逆にガッカリするんじゃないかと思うほど(笑)。ちなみに、たしかに綺麗だけど『Wind』のほうが凝縮されてて綺麗だったよなあと思いながら見てたんだけど、帰宅してたしかめると……思い出補正でした(笑)。
最後にストーリィに関して、ちょっと心に止まったところを一点。ラストの場面が糸守ではなく東京だったこと、というか三葉が東京に出てきていたことにある種の虚しさを感じた。もちろん東京に憧れており、東京に住む瀧くんの記憶に残らない記憶を持つ三葉が東京に出てきていることはきわめて自然で、なにか満たされない、どこかが欠けた、けれどもよどみなく流れていく日常を持つ人物という新海作品のテーマにも合致するんだけど……。なんなんだろう、ステレオタイプに「荒涼」という形容をなされる都市で、再び出逢ったふたりのこれからが豊かであろうとすぐに結び付けられなかったからかもしれない。このあたりは、また見なおしてどう感じるかたしかめてみたい。ただ一つ言えるのは、すれ違った瞬間の葛藤、声をかけた瞬間の勇気、かけられた瞬間の喜び、これは間違いなく彼らにとっても、自分たち観客にとっても豊穣の瞬間だった。
この作品は自分の新海体験にとって大きなメルクマールだった。次回作がどのようなものになるのか楽しみだし、期待もしたい。