『永遠の0』百田尚樹(講談社)読了

まず筆者の百田氏について、そもそもいい印象を持っていなかった。それは、Twitterでの憲法9条についての発言に代表されるような思想に同意できないからだし、なによりその表現方法から透けて見えるものが下品に感じられて仕方なかったから。あれははたして「立派な日本人」の言うことなんだろうか?

そんな気持ちもあって意図的に避けてきた同氏の著書だけど、本書の映画版のVFXがなかなかよいというウワサを聞き、見に行くことにしたので、初めて手を付けてみた。

肝心の内容について、本書は以下の2本の柱で構成されていたと思う。

  1. 戦争を戦った人の描写
  2. 主人公の死んだ祖父、宮部が取った行動にまつわる謎

まず2。結論からいうと、相当肩すかしだった。ミステリ的なカタルシスを期待しながら読んでたので、そもそもそれが間違いだったんだろう。ただ、それを差し引いても、宮部が最後にした決断の意味の大きさがあまり響かなかった。もちろんいろいろと補完はできるけど、もっと彼の懊悩を伝えてくれてもよかったんじゃないか。

次に1。真珠湾から特攻まで、日本海軍全史の美味しいエッセンスを抽出といった趣で、戦史物を読んだことのない人にとっては新鮮だったんだろう。エッセンスというか、ラバウルのあたりは『大空のサムライ』の搾りかす、といったほうが正確かもしれないけど。また、歴史観について警戒しながら読んだけど、それほど異を唱えたいところはなく、これは意外だった。

ただ、(前線の)兵士たちも1個の人間だったということを強調したいあまり、皆が皆家族や妻・恋人のために戦っていたかのような(あるいはそれらを大切なものとして捉えるようになった)描写はしっくりこなかった。ノンフィクションに片足を突っ込んでるんだから、もう少しヴァリエーションがあったほうが個人的には納得がいったように思う(そう考えると『炎の門』は説得力があった)。

また、マスコミへの糾弾が鋭かった。高山という人物の造形がステレオタイプでうんざりしたが、多くのマスコミが戦争への道を先導し、戦後十分な反省もせずに臆面もなく転向したという指摘には完全に同意できる。加えてそれに煽られた民衆の責任について、本書では弱い指摘にとどまっているけど、こちらも相当大きいだろう。熱狂した民衆に押され、マスコミはさらに強硬になる。完全に正のフィードバック。結局のところ、戦争の責任は日本人全員にあった。

と、同意できるところもあったけど、根底に流れる「今の日本人はたるんでる。一所懸命アジア・太平洋戦争を戦った昔の日本人はえらかった」という主張がどうにも感性に合わなかった。金色長髪のにーちゃんが、じーさんの戦争の話を聞いて、黒色短髪に変えたシーンなんかはバカバカしかった。

そんなこんなで読後感はあまりよくなかったけど、いろいろと考える機会を与えてもらえた小説ではあった。

結局日本はABCD包囲網以降どうしたらよかったんだろうね。あるいはもっと遡って日露戦争以降。今ふと思ったんだけど、これを中韓の人と一緒に考えるってのはどうなんだろう。俺が知らないだけであるのかな。あるんだろうな。

http://www.amazon.co.jp/%E6%B0%B8%E9%81%A0%E3%81%AE0-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E7%99%BE%E7%94%B0-%E5%B0%9A%E6%A8%B9/dp/406276413X

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です