『偽薬のミステリー』パトリック・ルモワンヌ(紀伊國屋書店)読了

従来、偽薬というものは医療・治療にとってのノイズで、究極的には根絶すべきものだという考えていたが、本書を読んで少し思い直した。

患者の治療こそが最大の命題だとすれば、医師と患者の信頼に強く依存する偽薬は、治療の一形態であるともいえる。さらに言うならば、医師が患者に接する態度や励ましの言葉なども(有効成分が定量的に検出できず、再現性もないという意味で)偽薬の一種といえるかもしれない。

偽薬を効果的に用いることができれば、実薬による副作用を減らしたり、医療費を圧縮したりすることもできるかもという夢も広がる。とはいえその利用に際しては倫理が問われることも必定。偽薬について正しい説明がなされ、広く理解されることが必要だが、みんなが理解すればするほどその効果は薄まるという問題もある。8章の最後にあったような素晴らしい例なんかは理想的だが……。

ともあれ間違いなく言えるのは、医師が患者にとってどれだけ重要かということだろう。その一挙手一投足が治療を大きく左右するということに当の本人たちは気づいているんだろうか? 自分が受けた診察の経験からいうと、思い至っていない医師も多そうな気がする。そもそも医師の育成にあたって、そういった教育はどの程度行われているんだろう? 機会があれば聞いてみたいものだ。

また、7章の最後でホメオパシーについてすぐれた指摘がなされていることにも言及しておきたい。偽薬療法(信奉者はホメオパシーは違うと主張するだろうが、偽薬療法そのものだろう)は、治癒の可能性と不可能性を見分けることができる医師によって実践されているからこそ意味があるのである。

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